「もう奇跡とは言わせない!」日本vs.スコットランド戦 NHKスペシャル「死闘の果てに」完全版

瞬間最高視聴率  53.7%

なぜ、あんなにも引き付けられたのだろうか・・・

なぜ、あんなにも心を揺さぶられたのだろうか・・

観客動員数  1.704.443人

実況「もう、これは、奇跡とは言わせない!!」

人々を熱狂の渦に巻き込んだ

ラグビーワールドカップ2019

今大会、イングランドを準優勝に導き、前回大会は日本代表のヘッドコーチとして、南アフリカを倒すという、歴史的ジャイアントキリングをなしと遂げた

名将

エディー・ジョーンズ

ラグビーを知り尽くした男の胸に深く刻まれた試合がある

「ワールドカップの中で最も輝いた試合でした」
「とても興奮しました」

エディーがベストゲームと絶賛したのが

悲願のベスト8をかけた日本とティアワンと言われる強豪の一角、スコットランドとの一戦

ラグビーの歴史に残る名勝負となった

私たちは今回、日本とスコットランドのキーマン20人以上を取材

田村優(日本代表10番)

「人生も変わるであろう試合って」
「一生の中で一回あるかないか」

グレイグ・レイドロウ(スコットランド代表9番)

「あの試合を」
「生涯忘れることはないでしょう」

更に最新の映像技術を駆使してこの一戦を紐解くことにした

浮かび上がったのは高度な戦術を駆使した世界最高レベルの戦い

この試合を見ていた南アフリカのファフ・デクラークは
衝撃を受けたという

「完全に見方が変わりました」
「日本はまさに強豪国になったのです

そして、一進一退の息詰まる攻防が続いたラスト25分

選手たちは勝敗を超えた不思議な感覚を味わっていた

松田力也選手(日本代表22番)

「すごく苦しそうでしたけど」
「楽しそうにプレーをしてたんで」
「もっとやりたい思いもありました」

 

ボッグス選手(スコットランド代表15番)

「ラグビーを続けてきたのは」
「人々の記憶に残る」
「こんな試合のためなんだ」
「そう感じました」

知られざる物語の幕が

上がる

死闘果てに 日本vs.スコットランド

スコットランド知られざる戦略

試合前日2019/10/12

「暴風雨に大雨、数十年に一度しかないような緊急事態です」

波乱含みの幕開けだった
決戦を翌日に控えた10月12日
日本列島を台風が直撃

試合が中止となれば一次リーグ敗退が決まる、スコットランド
試合開催を強く訴えた

スコットランドラグビー協会 マーク・ドットソンCEO

「延期してでも、試合をしてほしい」
「4年間準備をしてきたし」
「世界中が試合を臨んでいる」

一次リーグを確実に突破するためには

日本は勝つか引き分け

スコットランドは勝利が絶対条件だった

決戦の舞台は台風の爪痕が残る横浜

10月13日 横浜国際総合競技場

それでも、スタジアムには過去最多の

6万7000人がその瞬間を見届けようと集まった

日本からおよそ一万キロ離れた、スコットランド
スコットランドの人々は決勝トーナメント進出を固く信じていた

いよいよ、決戦の火ぶたがきられる・・・

試合開始直後
スコットランドがキックを使って日本を崩しにかかる

そして、前半7分

スコットランド 先制トライ

日本0-スコットランド

日本の出鼻を大きく挫く、衝撃の立ち上がりとなった
実は、スコットランドは、打倒日本のプランを周到に練っていた
今回、選手たちがあの試合について初めて語った

キャプテンを務めた、スコットランドの英雄
スクラムハーフのグレイグ・レイドロウ選手
前回のワールドカップで日本と対戦
勝利している

それでも、強い警戒心を頂いていたと明かした

グレイグ・レイドロウ選手(スコットランド代表9番)

「日本は前回大会のチームとは」
「比べものにならないくらい」
「進化している」
「そう感じました」
「日本がアイルランドに勝ったのを見て」
「難しい試合になると確信しました」
「何かチームの強みがなければ」
「アイルランドには勝てませんから」

スコットランドの指揮を執るタウンセンドヘッドコーチ
グレガー・タウンセンド

日本とアイルランドとの試合を分析し、キックを使った攻撃に勝機があると見出していた

グレガー・タウンセンド(スコットランド代表ヘッドコーチ)

「アイルランドとの試合は」
「非常に参考になりました」
「日本がヨーロッパのチーム相手に」
「どのような試合をするか」
「そこから戦術を考えたのです」
「試合の立ち上がりは狙い通りだったと思います。」

最新技術で解き明かす日本代表の強さ

しかし、この日の日本は違った
ここから、スコットランドの予想を上回る攻撃を繰り広げていく
福岡の華麗なオフロードパスで同点に追いつく

日本-7スコットランド

そして、ニュージーランド代表、オールブラックスを彷彿とさせる
逆転のトライ

日本14-7スコットランド

さらにトライを重ね

日本21-7スコットランド

スコットランドを大きく、突き放した

前半の日本のボール支配率は実に74
これは大会を通して3位の圧倒的な数字

1位 オーストラリア 79%(対ジョージア戦)
2位 南アフリカ 76%(対カナダ戦)
3位 日本 74%(対スコットランド戦)

スコットランドに、攻撃の余地を与えなかった
日本の攻撃プランを組み立てた人物がインタビューに応じた
元オールブラックスの司令塔で日本代表アタックコーチ トニーー・ブラウン
日本の前半の攻撃はまさにイメージ通りだったと明かした

トニー・ブラウン(日本代表アタックコーチ)

「前半の40分」
「期待をはるかに上回る」
「最高のプレーを見せてくれました」
「選手たちはワンチームとして」
「完璧だったと言えます」

「完璧」とブラウンコーチが振り返る攻撃とはどのようなものだったのか
ワールドカップのために導入した最新の映像技術を使って紐解くことにした

100台の高精細カメラで360度、フィールドを取り囲むように撮影
実際の試合を使って、見たいところにカメラを移動できる
自由視点映像だ

日本が誇るトライゲッター、福岡から松島へと渡った最初のトラ
実は、日本の強さは、それよりも、前のプレーに隠されていた

リーチの突破から始まったこの攻撃
自由視点映像で見てみる
(リーチが持って走り密集になり、日本とスコットランドは同じ人数で横に並んでいた)

この時攻める日本の人数に対して、守るスコットランドの人数は同じ

スコットランドのディフェンスをこじ開けるのは難しい
ここで日本は、フォワードとバックスが一体となった、高度な連携を見せていた

密集になってマイボールの日本は、ボールの近くに
フォワードの堀江、姫野、そして、後ろには、バックスの司令塔田村が位置している
密集から出た(流から)ボールは堀江へ

スコットランドの選手を引き付けながら、ラブスカフニへパス
すると

姫野と田村が同時に異なる方向に走りだした
その動きに惑わされたスコットランドの選手は、田村へのパスのディフェンスが遅れた

姫野の動きと田村の動きに揺すぶられ、どの選手に日本がパスを出すのか、判断が遅れたのだ

こうして、スコットランドのディフェンスを揺さぶりながら、トライ直前の場面へ
ここでも、同じサイドで、似たような陣形をお互いがとるような場面となった

密集の一番近くにはまたもや、堀江の姿が

前の攻撃で、流からパスを受け取っている

スコットランドの選手の一人は、堀江を警戒していた

走り出した堀江を見てスコットランドの選手がわずかに重心を堀江の動きに合わせてずらした

流からボールが出ると、もう一人、スコットランドの選手が堀江に向かって走り始めた

しかし

堀江は今回はオトリだった

堀江がパスをスルーして、堀江の背後にいたラファエレにパスが繋がった
堀江の動きでスコットランドのディフェンスを引き付けた分、日本は数的優位に立てた

そして

ついに、スコットランドのディフェンスをこじ開けた

ラファエレは、福岡に繋ぎ
福岡のオフロードパスで松島に繋ぎトライ

一連のプレーの起点となった、スクラムハーフの流

流大選手(日本代表9番)

「オトリ(デコイ)を走る選手にも必ず仕事があって」
「相手をどうやって止めるかというのにも」
「すべて意図があるので」
「もちろん、マツのスピードや」
「堅樹のオフロードパスは素晴らしいけど」
「目に見えないところで」
「目立たないところで」
「働いている選手がいるから」
「日本のラグビーは成り立っている」

こうした高度な連係を実現させているのは、圧倒的なハードワークだと堀江は語る

堀江翔太選手(日本代表2番)

「キツサはありますよ」
「普段からしっかり理解して」
「自分たちの仕事を明確にして」
「チームとして強くなるためには」
「監督・コーチが求めることを100%表現する」
「というのが僕たちの仕事だと思うんですね」

前回大会、日本代表を率いたエディー・ジョーンズ(イングランド代表ヘッドコーチ)
このプレーを見て、日本の進化を強く感じたという
エディー・ジョーンズ(イングランド代表ヘッドコーチ)

「狭いエリアでの堀江の動きは素晴らしかった」
「日本の攻撃は世界でもトップ5に」
「入るレベルだと証明しました」
「体格的に劣る日本にとって」
「こうしたスキルは生命線です」

準々決勝で日本と戦った、南アフリカ代表のスクラムハーフ
ファフ・デ クラーク選手
南アフリカは日本との対戦前に、スコットランド戦を分析し
日本の攻撃が想像よりも遥かに高いレベルにあることを痛感したという

ファフ・デクラーク選手(南アフリカ代表9番)

「日本の選手はフォワードとバックスが一体となって」
「全員が素晴らしいプレーをしていました」
「日本はこれまでの評価を完全に覆し」
「強豪国の仲間入りを果たしました」
「もはや格下ではありません」

世界が称賛した、日本の高度な連携
それを可能にしているものがあると、流選手が明かした
前半終了間際に奪った3トライ目

流大選手(日本代表9番)

「あれは目指してきたものが」
「すべて凝縮されているというか」
「あのシーンが僕は一番いいトライ」
「だったと思います」
「これこそがSame Pageというか」
「同じ絵を見れている」
「素晴らしいトライだったと思います」

SAME PAGE・同じ絵

流が語った、同じ絵(Sane Page)とは一体何なのか・・・

スコットランドの自陣からキックで始まるこのプレー
横一列で飛び出す、スコットランド
日本がキャッチしたボールを奪おうと、密集付近に集まる

この時、ボールとは離れた場所で別の行動をとる、日本のフォワードの選手がいた

稲垣、堀江、そしてムーアの三人
いずれも、次の攻撃のイメージを共有していた

姫野も密集には近づかず、攻撃に参加するため準備に入る
流が密集から田村にボールを出した瞬間

稲垣、堀江、ムーアの三人がバックスのラインの中に入り同時にスタートを切って

オトリとなる

三人が見た同じ絵はスコットランドのディフェンスを引き付けるこの場面だった

流大選手(日本代表9番)

「堀江さんもいい動き」
「ジミー(ムーア)もオプションになっているので」
「相手の内側の選手を3人で」
「トラップ(引き付け)できている」
「完全にスコットランドの三選手が」
「トラップにかかって、止まってしまっているので」

さらに、とっさの判断で攻撃に参加していた、
姫野に田村から、ボールが渡る
ここでも、数的優位生むイメージが共有されていた

さらに、とっさの判断で攻撃に参加していた、
姫野に田村から、ボールが渡る
ここでも、数的優位生むイメージが共有されていた

姫野からボールを受け取ったラファエレ
この日、日本はキックを封印し、パスを繋ぐ作戦を取っていた

しかし!

ラファエレの選択はキック

福岡はキックを見越してかのように飛び出し
トライに結び付けた

なぜ、このような阿吽の呼吸が可能だったのか・・・
通常、キックをする場合、蹴る側と受ける側が目で合図するなどコミュニケーションを取る

しかしラファエレは
一度も、福岡を見ていない

それでも・・・
キックと福岡の飛び出しのタイミングは完全に同じだった

福岡堅樹選手(日本代表11番)

「彼(ラファエレ)なら」
「そういう判断をしてくれる」
「同じ絵を見たときに」
「スコットランドのラインの背後にいた」
「10番のラッセル選手が先に」
「前のスペースを埋めてきたのが
見えた

二人が見た、同じ絵

それは、数的に不利になったことで、慌てて、前に詰めるラッセル選手の姿だった

流にも、その絵が焼き付いていた

流大選手(日本代表9番)

「ラッセル選手が上がってきて」
「裏には誰もいない状況で」
「ポゼッション(ボール保持の戦術)と言いながら」
「相手の上りと裏のスペースを見て判断できている

福岡堅樹選手(日本代表11番)

「彼ならここで、キックという選択肢をしてくれる」
「やはり、それは、チームメートへの信頼だと思う」

選手同士の信頼があって、初めて、同じ絵を見ることができると語った福岡選手
この同じ絵「Same Page」という言葉は
三年前、日本代表のヘッドコーチとなったジェイミー・ジョセフが繰り返し説いてきた言葉だ

ジェイミー・ジョセフ(日本代表ヘッドコーチ)

「みんなの考えと行動を一致させるには」
「お互いの信頼が必要で」
「築き上げるのには時間がかかります」
「他のチームよりもハードに頭を使って」
「練習を積み重ねれば」
「できなかったことができるようになるのです」

スコットランドの猛追 日本のほころび

前半は完璧だった、日本の攻撃
しかし、上手く行き過ぎていることで逆に不安も生まれていた
日本の攻撃プランを練ったトニー・ブラウン

トニー・ブラウン(日本代表アタックコーチ)

「前半あれだけ攻撃し続けていたので」
{心配していました」
「ラグビーではボールをつないで}
{攻撃し続けるのは」
「守備よりはるかにハードです」
「前半のような攻撃を続ければ」
「後半選手たちはもたない
そう考えていました」

肉体と頭脳を酷使する日本の攻撃が選手たちに過度の負担をかけていると考えていた
ここまで、防戦一方だったスコットランド
実は、タウンセンドヘッドコーチも日本の戦いぶりは後半までもたないと見ていた

タウンセンド(スコットランド代表ヘッドコーチ)

「日本の高度な攻撃を成功させるためには」
「試合を通じて膨大な運動量が求められ」
「疲労度も高くなります」
「私たちが後半最初の10分でボールを持てれば」
「攻撃のスペースを見つける自信がありました」

ハーフタイムのスコットランドロッカールームで、タウンゼントヘッドコーチは選手たちに

「必ずチャンスは来る!」
「それを見逃すな!」
と指示していた

後半開始直後の3分

福岡が相手のボールを奪い
4つ目のトライ

日本28-7スコットランド

この時点で日本の勝利は確実と思われた

しかし・・・

スコットランドの選手は全く別の感触を抱いていた

レイドロウ選手(スコットランド代表9番)

「福岡のあのプレーが私たちの大きなターニングポイントでした」
「日本が前半、私たちに仕掛けてきた攻撃を」
「今度は私たちがする番だと思いました」

タウンゼントヘッドコーチ(スコットランド代表ヘッドコーチ)

「結果として日本に得点され7点を失いましたが」
「あの場面は我々にとってトライを奪うチャンスを」
「見つけた決定的な瞬間だったのです」

なぜ、失点したシーンがチャンスだと言うのか・・・

この福岡選手のトライが生まれたプレーの局面
スコットランドは、日本に大きなほころびが生じていることに気づいていた

それは、福岡選手がスコットランドから
ボールを奪った時のプレーの外側のスペース
この時スコットランドには数的に優位な状況が生まれていた
実は日本のディフェンスが密集に集まり
サイドに広大なスペースが生まれていたのだ

もし福岡にボールを奪われていなければ
自分たちがトライを取っていたかもしれないとスコットランドの選手は考えていた

フィン・ラッセル選手(スコットランド代表10番)

「あそこで一つパスが通っていれば」
「3対1の局面になっていただけに」
「違った結果になっていたかもしれません」

タウンセンド(スコットランド代表ヘッドコーチ)

「あれだけ大きなスペースを見つけたので」
「我々の方がトライをとって逆転できると感じました」

素早い出足が持ち味の日本のディフェンス
前半、日本はキックやパスの起点となるスコットランドの司令塔
ラッセル選手を自由にさせないように

外側から素早く、囲むようにプレッシャーを掛ける作戦だった
スコットランドは日本が外側を埋めてきているため
内側をつくしかなく
そこを日本のフォワードがタックルして
仕留めるというものだった

しかし、日本のフォワードは前半あらゆる局面でハードワークを求められていた

その疲れによって、フォワードのタックルが少しづつ甘くなり
そこをカバーするため、バックスの選手たちが守備に回り内側に詰めなければいけなくなったいた

その結果日本の外側にスペースが生まれてしまっていたのだ

姫野和樹選手(日本代表8番)

「チームの動きが悪くなってきたときが」
「後半は結構多くて」
「ミスもそうですけど」
「タックルの甘さもそうですけど」
「体の疲労が目に見えてくる時間帯だった」

中村亮土選手(日本代表12番)

「フォワードが中を切り込まれて、切り込まれて」
「バックスがどんどん前に出られなくなるんですよ」
「やはり、フォワードの近辺でスコットランドに」
「プレッシャーをかけられたからこそ」
「外のスペースが空いてきた

更に、4トライ目になった福岡のトライの得点で
ベスト8進出の可能性が高まったことが心理面で影響したと語る選手もいる

流大選手(日本代表9番)

「僕としても正直・・」
「あのトライで決まったなと思いましたし」
「ちょっと心理的に緩くなったというのはあると思う」

松田力也選手(日本代表22番)

「一見、楽に取れたトライの雰囲気だったので」
「このまま乗っていけるか」
「でも、ちょっと緩くなるかなと思ってましたけど」

日本のほころびに気づいたスコットランドは
そこを徹底的につく作戦に切り替える

レイドロウ選手(スコットランド代表9番)

「ボールを外側のスペースに素早く展開し」
「足の速いバックスの選手に」
「ボールをつないでチャンスを作る」
「そういう作戦に切り替えました」
「実際、それがうまくハマりました」

スチュアート・ホッグ選手(スコットランド代表15番)

「自分たちの戦術がそれまで全く通用しなかったので」
「一か八かやるしかありませんでした」
「もともとのプランにはなかったことですか」
「もう失うものは何もありませんでしたから」

試合の流れは一気にスコットランドに傾いていく

日本28-14スコットランド

堀江翔太選手(日本代表2番)

「軽くパニックが起きたんじゃないですかね」
「全部ボールが外に逃げていくので」
「イライラし始めて」
「全くチームが違うような感じできたのは」
「初めてだったかもしれないです」

この状況を見ていた、エディー・ジョーンズ
スコットランドが逆転するかもしれないと感じ始めていた

それは、2019年3月、ワールドカップまであと半年を来った時だった
イングランドが宿敵、スコットランドと対戦した時のことだった

この試合前半で31-7
とイングランドは大きくスコットランドをリードしていた

しかし、後半
スコットランドは前半とは全く違うチームに変わったように
怒涛の反撃で一気に逆転されてしまったのだ

エディ・ジョーンズ(イングランド代表ヘッドコーチ)

「スコットランドは伝統的に闘争心の強いチームです」
「負けているときほど、反骨精神を発揮する数少ないチームです」
「後半の追い上げは毎回目を見張るものがある」
「非常に危険なチームです」

後半残り30分

スコットランドはさらにギアを上げる
疲れの見えた4人のフォワードを一気に交代
日本を追いつめる作戦だった

タウンセンド(スコットランド代表ヘッドコーチ)

「日本を逆転できると思っていました」
「3月のイングランド戦の記憶と重なったからです」
「あのときも選手交代がカギにでした」
「今回も同じ展開に持ち込めるとそう信じていました」

狙いは、すぐに的中した
変わって入った選手が、日本のフォワードをなぎ倒しトライを奪った

日本28-21スコットランド

点差は7点、ついに1トライ1ゴールで同点の状況になった

スチュアート・ホッグ選手(スコットランド代表15番)

「試合をコントロールできていると感じていました」
「逆転できると確信していました」

ラッセル選手(スコットランド代表10番)

「チームはまだまだ行ける」
「そんな楽観的な雰囲気でした」
「このままいけば」
「もう何トライかできると全員がそう信じていました」

ラスト25分崖っぷちの攻防

残り時間は25分を切っていた
世界も恐れる、スコットランドの後半の追い上げを凌ぎきることはできるのか

日本中がかたづを飲んで見守った

最後の攻防が始まろうとしていた

日本に突き放すチャンスが訪れる
スコットランド陣内でボールをつなぎ続け
21回に渡る連続攻撃
しかし、選手たちはこの時間帯

同じ絵(Same Page)を見ていなかったと明かした

田村優選手(日本代表10番)

「いけそうだったんですけどね、ちょっと合わない」
「僕のイメージと合わない時が何回かあった」
「もっと早く(球出し)の」
「テンポを出してほしかったんですけど」
「史さん(田中史朗)なんか、止めてました」
「僕は早く出せと言っていたんですけど」

攻撃のスピードを上げて一気にトライを奪いたい田村
それに対して、スクラムハーフの田中は時間を稼ぐことを優先していた

流大選手(日本代表9番)

「僕が出ていても同じ判断をしていたと思います」

田中と交代した同じスクラムハーフの流

流大選手(日本代表9番)

「その時間帯はスコットランドが」
「ボールを持った時がいちばん勢いがあって」
「相手にボールをもたれたくないという意図から」
「フェーズを田中さんは重ねたと思います」

ディフェンスのほころびを修正できずにいた
スコットランドは、空いた日本の外のスペースを突いてくる作戦をまだ、続けていた

姫野和樹選手(日本代表8番)

「少しの判断ミスとか」
「ちょっとしたズレが」
「グラウンドの中で起きていたのは事実です」

堀江翔太選手(日本代表2番)

「迷いが生じる、前にいっていいのだろうか」
「変にズレて抜かれる方が怖いので」
「前に出られなくなる」
「そのへんが嫌でしたね」

残り25分は日本代表にとって因縁のある時間帯だった
4年前の2015年ワールドカップイングランド大会
ベスト8進出を狙った日本の前に立ちはだかったのがスコットランド

くしくも同じ残り25分

1トライ1ゴールの差から、立て続けに4トライを奪われた
結局、チームとしての一体感を取り戻せないまま敗退

スコットランド45-10日本

と敗退
ベスト8進出とはならなかった

今回コーチとして試合を見守った
長谷川慎
検討しながらも最後に勝ちきれない、かつての日本代表の姿がよぎっていた

長谷川慎(日本代表スクラムコーチ)

「日本代表が勝てなかった時というのは」
「そこ(後半25分)から崩れていくんですね」
「そこまではほんとにいい試合をしてるけど」
「そこから崩れていく」
「まあそこがずっと気持ちの中で残ってたんですけども」

崩れかける日本
本来の姿を取り戻したスコットランド
日本はこの難局をいかにして乗り切ったのか

選手たちへのインタビューから一つのプレーが
チームの勢いを取り戻すきっかけになっていたことがわかった

中村亮土選手(日本代表12番)

「ああいうプレーがあればあるほど」
「チームの士気が上がる」

流大選手(日本代表9番)

「絶対にみんなに対しての」
「メッセージだったと思います」

それは日本が得意としてきたラインアウトを初めて失敗した直後
嫌な空気が流れた時のことだった

スコットランドが外に大きく展開したボールに
福岡が鋭く反応

スコットランドの選手は
福岡のディフェンスで
パスをキャッチできなかった

福岡堅樹選手(日本代表11番)

「あれは正直、取れると思って飛んでいなくて」
「でもここで行かなきゃ」
「本当にピンチになると思ったので」
「本当に死にに行く覚悟というか」
「もう正面衝突も辞さない気持ちで」
「突っ込んで取りに行ったので」
「そこで攻撃の芽を一つでも摘むことができた

福岡の後ろに走りこんできたのが12番の中村

中村亮土選手(日本代表12番)

「相手のパスが大きくなって浮いたことで」
「詰められると判断して行ったと思います」

福岡の身を挺した捨て身のディフェンス
このプレーが自分たちがやるべきプレーを思い起させた

その後、姫野のジャッカルを始め
持ち味の出足の鋭いディフェンスが蘇っていく

田村優選手(日本代表10番)

「みんな指一本で止めるぐらいの感じだった」
「苦しいですけどトライされる感じはなかったですね」
「一気に集中力が上がったので」

ヴァルアサエリ愛選手(日本代表18番)

「最後はずっとスコットランドが攻めて」
「こっちはずっとディフェンスだから」
「やっぱり自分たちを信じて、自分たちがやってきたこと」
「ハードトレーニングしてきたこと

自分自身、そして、互いを信じ切る気持ちが戻ってきた

ピーター・ラブスカフニ選手(日本代表7番)

「誰もが自分に何が求められているか」
「理解していました」
「バラバラではなく全員が互いを」
「必要としていました」
「信じること、自分を信じること、信じれば」
「向かっていく姿勢も変わるので

堀江翔太選手(日本代表2番)

「自分たちのプランは正しいという話は」
「あの時グラウンドでしていました」
「間違ってないと」
「そういう、僕たちの戦術・戦略は間違ってないから」
「そのままやり通そう」
「今まで、やってきたことをやりきろう」って

この苦しい時間帯、長谷川は選手たちの成長に驚きを隠せなかったという

長谷川慎(日本代表スクラムコーチ)

「今まではみんな信じようとしていた」
「だから、ちょっとブレたら」
「(上手くいかなかったら)」
「あれ?あれ?あれ?っていた」
「でもあの試合では信じようとしている」
「そんな次元じゃなかったですね」
「ちょっとぐらいブレても、あるある!大丈夫みたいな」

240日に及んだ合宿を共に過ごしてきた選手たち

長谷川慎(日本代表スクラムコーチ)

「すっごいきつい練習、すっごいきつい合宿を乗り越えたら」
「すごく、一つのチームになる」
「それを何回も何回も繰り返して」
「試合の時の出されたプランをみんなが信じてやる」
「プラス、信じてやりきれる準備ができている自信」
「そういうのが全部ひっくるめて上手くいった」

ラスト25分 選手だけが見た景色

日本ゴールを何度となく脅かすスコットランド
一丸となって向かってくる日本の選手たちの姿が強く目に焼き付いていた
どれだけ、攻撃しても、しつこくディフェンスを続ける日本代表の選手たち

スチュアート・ホッグ選手(スコットランド代表15番)

「試合が進むにつれ」
「日本はますます強くなっていきました」
「彼らは何年もともに練習を続け」
「この場にたどり着いたんだと思います」
「選手にとって、とても大事なことです」

世界の強豪の中でも最も古い歴史をもつチームの一つ
スコットランド

自らの伝統
そしてプライドにかけて
彼らもまた、死力を尽くしていた

レイドロウ選手(スコットランド代表9番)

「我々はここ最近もフランスやイングランドなどの」
「強豪国に勝利してきました」
「このままいけば日本に勝てると信じていました」

後半残り8分

リーチと堀江が交代

チームの精神的な柱である、二人のベテランが交代した

しかし、リーチはライン際に残り、立ち去ろうとしない

リーチ・マイケル選手(日本代表6番)

「一番の理由は信じることだと思います」

リーチはライン際から、仲間を鼓舞し続けていた

スコットランドの攻撃を必死で耐える日本代表

リーチらの想いを継いだ選手たち・・・

精神と肉体の限界が迫る中

それまで経験したことない感覚にとらわれ始めていた

ピーター・ラブスカフニ選手(日本代表7番)

「最後はやるかやられるか」
「実はその時の感情を覚えていないんです」

田村優選手(日本代表10番)

「人生も変わるであろう試合は」
「一生に一回あるかないかです」
「ようは楽しい時間なので」

松田力也選手(日本代表22番)

「すごく苦しそうだったけど」
「楽しそうにみんなプレーしていました」
「もっと、やりたい思いはあったけど」
「苦しい状況なので」
「早く時間が過ぎて終わりたい気持ちが」
「両方入り混じってましたね」

負ければ一次リーグ敗退の屈辱を味合う、スコットランドの選手たち
しかし、彼らもまた、同じような感覚にとらわれていた

ラッセル選手(スコットランド代表10番)

「もはや勝ち負けを超えていました」
「そんな試合は滅多にありません」
「大きなプレッシャーがかかっていたはずですが」
「こんなにラグビーが楽しいと感じたことはありませんでした

ホッグ選手(スコットランド代表15番)

「これまでで最高の試合でした」
「人々の記憶残るこのような試合のために」
「自分はラグビーを続けてきたのだと・・・」
「そう感じました」

スタジアムは異様な空気に包まれていた

沸き起こる、日本人サポーターからの「ニッポン」コール

タウンセンド(スコットランド代表ヘッドコーチ)

「選手とサポーターが一つになった感覚に」
「心動かされる自分がいました」
「日本のラグビーにかつてない素晴らしいことが起こっている」
「その時間を共有できることに選手たちも喜びを感じて」
「感謝していたと思います」

日本を引いたジェイミー・ジョセフヘッドコーチ
この試合の中でラスト5分が最も好きだという

なぜ最後の5分を選んだのですか?

ジェイミー・ジョセフ(日本代表ヘッドコーチ)

「負ける可能性さえあったのに、みんな楽しんでいるんだ」

時計の針は

残り1分30秒

最後の力を振り絞る両チーム !

日本の自陣で、攻撃を畳みかけるスコットランド
それに耐える日本

バックスの選手も必死のディフェンス
身を挺してラファエレがタックルすれば、福岡も続く

ここでも、選手たちのイメージが重なった

福岡堅樹選手(日本代表11番)

「ほんとにチームが一枚の絵を見るということの」
「模範のようなプレーになったと思います」
「ボールに絡むチャンスだったので」
「いざ、ボールに絡んでみたら」
「味方がたくさんは入ってきてくれて」
「最後とることができたのでうれしかったですね」

密集で日本がマイボールにする

そして・・・
その瞬間が来る

実況「ノーサイド!

実況「最後の25分間、耐えに耐えて耐えきりました」

最後にもう一度、自分たちを信じることができた日本

相手へのリスペクト
そして
自らの誇りを最後まで失わなかったスコットランド

死闘の果てに

ノーサイドの瞬間、彼らの胸に去来したものは・・・

堀江翔太選手(日本代表2番)

「あの時にはじめて感動を与えられるような試合が」
「できたかなと思います」
「僕も何か感じてもらえるような試合を」
「したいといつも言ってますが」
「唯一あの最後の試合は」
「なんか伝わったんじゃないかなと思います」

姫野和樹選手(日本代表8番)

「メンタリティーがすごく変わったと思います」
「僕らはどこかで弱い国だと自分たちを決めつけていた」
「ところがあったと思いますが」
「そうじゃなくて日本代表、日本のラグビーは強いんだ

そして、スコットランドの選手たちの脳裏に強く焼き付いたものは

タウンセンド(スコットランド代表ヘッドコーチ)

「日本代表から感じたのは互いの信頼です」
「キャプテンへの信頼、一つ一つのプレーへの信頼」
「高度なプレーはこうした信頼に裏打ちされているのです」
「個人だけでなく、チームとしての自信、互いを信頼する強さ」
「ラグビーに大事なものを思い出させてくれました」

福岡堅樹選手(日本代表11番)

「信じきって自分の役割を果たすことが」
「みんながやりきればそれがワンチームという」
「本当に強い力を生むということが」
「みんなにも伝わったと思います」
「伝わったからこそ」
「こういう盛り上がりになったと思います」
「社会で生きていく上でそれができるかどうか」
「というのは本当にみんなが理想としているところだと思うので」

死闘から一週間後

南アフリカvs.日本

26-3

日本に勝ち抜く力は残されていなかった

そして ・・・・

ワールドカップを制したのは南アフリカ!

日本ラグビーの歴史を変えた試合・・その先に見えたもの

2019年12月11日

ラグビー日本代表流は東京を見下ろすホテルの一室にいた
これから5万人の観衆の中、パレードが行われる

流大選手(日本代表9番)

「姫野~って言ってるんじゃないですかみんな」
「姫野、ガッキーとか、ガッキー笑って」
「とか言うんじゃないですかね

なぜ、あんなにも心を揺さぶられたのだろうか

流大選手(日本代表9番)

「僕らのプレーとかラグビーを見てもらって」
「少しでも力になった人がいるなとすごく感じるし」
「たくさんの人が応援しくれたとすごく感じるので」
「すごくいい大会だったと思います」

無骨な男たちが紡いてきた信頼と成長の物語

これで終わりではない

次のワールドカップは4年後

日本代表はきっとまた新たな景色を見せてくれるはずだ

NHKスペシャル「死闘の果てに日本vs.スコットランド

2019年12月29日(日) 午後9時50分~10時49分

国内外で熱狂を巻き起こした、ラグビー日本代表。新たなファンも獲得し、視聴率は瞬間最高50%超を記録、今年を象徴する名シーンをいくつも生み出した。
中でも、日本ラグビーの歴史を変えたと評価されたのが、ベスト8をかけた強豪・スコットランドとの1次リーグ最終戦だ。台風19号の接近で開催が危ぶまれた試合は、予想外の展開の連続だった。前半、日本が誇る松島・福岡が連続トライ。20点以上のリードを奪ったが、スコットランドは徐々に日本のわずかな隙を突き、逆襲。1トライ1ゴールの差まで詰め寄られ、残りは25分。ここからノーサイドまで、両チーム一進一退、息詰まる攻防が繰り広げられることになる。「あの25分こそ日本ラグビーの進化の証」、そう選手・コーチ達が語る25分の死闘が…。
番組では、100台を超すカメラで撮影された「自由視点映像」をフル活用。さらに、両チームの選手・コーチ陣へのロングインタビューで、歴史的試合の知られざるドラマを再構築する。ラグビーワールドカップの「最も長い25分」。その果てに、選手達がつかみ取ったものとは・・・。

NHKスペシャル http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20191229_

語り 西島秀俊

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